遺言の残し方
目次
公正証書遺言と自筆証書遺言
一般に多く使われる方式として公正証書遺言と自筆証書遺言の2種類があります。形式や記載内容が不備なために法的に無効となるリスクを回避し、遺言の内容を確実に実現できるのが公正証書遺言です。
【公正証書遺言と自筆証書遺言】
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | |
---|---|---|
概要 | 公証役場で2人以上の立会人のもとに、遺言の内容を公証人に口述し、公証人が遺言書を作成する 遺言の原本が公証人役場に保管される | 本人が遺言の全文と遺言を作成した年月日および氏名を自書し捺印する |
作成場所 | 公証役場 | どこでもよい |
作成者 | 公証人 | 本人 |
署名捺印 | 本人、公証人および承認 | 本人 |
家庭裁判所の検認 | 不要 | 必要 |
保管場所 | 原本:公証人役場 生本:本人が保管 | 本人保管 |
無効になる可能性 | 無効になることはほとんどない | 要式不備(形式や記載内容の不備)による無効の恐れ |
発見されない可能性 | あり | なし |
長所 | 家庭裁判所の検認が不要 要式不備(形式や記載内容の不備)がない 発見の遅れ・偽造・紛失の心配がない | いつでも、どこでも作成できる 誰にも知られずに作成できる 費用が安価 |
短所 | 2人以上の立会人が必要 費用がかかる | 家庭裁判所の検認が必要 要式不備(形式や記載内容の不備)による無効の恐れ内容不明 発見の遅れ・偽造・隠匿などのリスク |
自筆証書遺言
公証人が遺言作成過程に介在する公正証書遺言書とは異なり、自筆証書遺言においては本人にその最終意思を確認することができません。
このため、自筆証書遺言の場合には、自筆要件を厳格に要求していました。
法的に有効な自筆証書遺言として認められるには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 全文を自筆で書くこと。(添付する財産目録も含まれます)
- 遺言をした年月日と氏名を記入すること
- 押印すること(実印、認め印、拇印いずれも認められますが、実印が安心です)
遺言書の全文を自筆で記載することによって、筆跡により本人が書いたものであることが判定でき、それ自体で遺言が遺言者の真意にもとづくものであることが保障されると考えたからです。
自筆証書遺言は検認手続きが必要
検認済み証明書がないと遺言の執行ができない
自筆証書遺言の保管者又はこれを発見した相続人は、相続開始を知った後に遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その検認を申し立てします。
遺言書の検認は、検認した時点の遺言内容を明確にして遺言の偽造や変造を防止するため証拠保全手続きです。遺言書の内容の有効性を判定するものではありません。遺言書が無効であることを確認するためには、遺言書無効確認の訴訟の提起が必要です。
検認終了後、検認済証明書を申請し入手します。遺言を執行(例えば、不動産の名義書換、預貯金の払い戻しなど)するには、遺言書に検認済証明書が付いていることが必要です。
検認せずに開封した場合
誤って開封した場合には、裁判所で事情を申述し、速やかに検認を受けましょう。ただし、開封した者には過料(5万円以下の罰金)が課せられます。
なお、検認を怠ったことにより相続人や利害関係者に不利益が生じた場合は、損害賠償責任が生じることがあります。
遺言書を隠す、偽造等をすると無条件で相続欠格
遺言書を、隠すとか、偽造・変造した場合には、無条件で相続欠格となり、相続権が剥奪されます。
遺言を書いておいた方が良い場合
相続人以外の者に財産を残したい場合は、死因贈与を除き、遺言書がなければできません。遺産の多寡にかかわらず、遺言は残された相続人間の争いを防ぐ有効な手段です。遺言書が必要なケースと記載にあたっての留意事項を挙げておきます。
相続人の関係が複雑な場合
- 子がなく、配偶者と親・兄弟姉妹が相続人となる場合(兄弟姉妹には遺留分が認められていないため、遺言どおりの相続ができます)
- 先妻の子と後妻の子がいる
- 内縁の妻や認知した子がいる
特定の者に財産を残したい
- 特別に財産を多く与えたい相続人がいる
- 相続権のない、子の嫁、孫、兄弟姉妹に財産を与えたい
- 生前に世話になった第三者に財産の一部を渡したい
- 公益事業に財産を寄附したい
遺言作成時の注意点
- 遺留分を侵害しない割合で相続分を指定する
- 相続分を指定する場合は、遺産の漏れがないようにする
- 相続争いが起こりそうな場合は、公正証書遺言を作成する
- 遺言執行者を指定する
- 特別受益者のある相続人がいる場合は、相続分を明確にする
- 寄与分がある相続人がいる場合は、相続分を明確にする など