相続の効力:権利の承継
相続による権利の承継の対抗要件
法定相続分を超える権利の承継については、登記などの対抗要件を備えなければ債務者等の第三者に対抗できないことになりました。
この見直しは、判例を明文化し、遺言の有無及び内容を知ることができない相続債権者・債務者等の利益を保護することや第三者の取引の安全を確保するために行われました。
【相続による権利の承継の対抗要件:法定相続分を超える部分】
承継する財産 | 対抗要件 |
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債権以外の権利 (例えば、不動産又は動産) | 登記や登録等(民法177条又は178条) |
債権 | 次のいずれかを満たすことが必要
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不動産等は対抗要件を具備しないと対抗できない
遺言による財産の処分方法には、次の3つの方法があります。
処分方法 | 遺言記載例 |
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1. 相続分を指定する | 相続人A、B、Cの相続分をそれぞれ3分の1とする。など |
2. 遺産分割方法を指定する | ○○に所在する土地を相続人Aに相続させる |
3. 遺贈する | 全財産の3分の1をAに遺贈する。○○に所在する土地をAに遺贈する |
法定相続分を超える部分の取得について、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できなくなります。
従来は、「相続させる」旨の遺言による不動産の取得の場合は、登記がなくても第三者に対抗できるとされていました。この考え方によると、法定相続分による権利の承継があったと信頼した第三者が不測の損害を被ることがあり、取引の安全を害する恐れがあります。このため、「相続させる」旨の遺言についても、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、債権者や第三者に対抗することができないとされました。
このため、相続が発生したら、速やかに相続登記をおこなう必要があります。
例えば、相続登記を行わないうちに共同相続人の債権者が不動産を差し押さえられると、遺言によりその不動産を取得した相続人はその権利を主張することができなくなるためです。
債権の場合は承継する相続人が債務者に通知する
債権は法定相続分に応じて当然に分割されますが、法定相続分を超えて債権を承継することもできます。
債権譲渡の原則的な規定を適用すると、次のいずれかを満たすことで、債務者等第三者に対抗することができます。
- 相続人全員による債務者への通知
- 債務者による承諾
しかし、今回の改正で、相続の場合には、他の相続人からの通知が期待できないため、法定相続分を超えてその債権を承継した相続人が、遺言の内容を明らかにして、債務者に対して通知をおこなうことで、相続人全員による債務者へ通知したとみなされます。
相続の場合には、次のいずれかを満たすことで、債務者等第三者に対抗することができます。
- 法定相続分を超えた債権を承継する相続人が、その債権に係る遺言の内容を明らかにして債務者への通知、または
- 債務者による承諾
この通知は、「確定日付のある証書」によって行う必要があります。
なお、法定相続分以下の部分については、通知をすることなく、第三者に対抗することができます。