相続開始後の入出金は誰のものか

所得税と相続税の観点から検討する

相続開始後に発生した被相続人に関係する入出金については、所得税と相続税の視点から検討する必要があります。

相続開始後の入出金に対する検討の視点

配当

配当金が誰の所得であるかは、株主総会等の決議があった日(配当確定日)を基準に判定します。一方、配当金を受け取る権利が誰にあるのかの判定は決算日(配当基準日)を基準におこないます。このため、次表のとおり配当基準日と相続開始日の前後関係で課税関係が異なります。

  • 配当金の収入すべき時期は、株主総会等の決議があった日を基準に判定(配当確定日)
  • 配当金を受け取る権利は、決算日を基準に判定(配当基準日)

配当基準日以降に相続が開始した場合、その配当金が未受領であっても被相続人の財産として源泉所得税等控除後の金額で評価します(評基通193)。

相続財産となる配当金の判定
配当金の帰属

*1  配当金は、原則、株主総会の決議(会社法454)により確定します。このため、総会決議日が配当所得の収入金額の収入すべき時期となるため、決算日と株主総会の間に相続開始があった場合の配当金は相続人の配当所得となります。配当金の収入すべき日に配当金を受領するのが相続人だからです。

*2 配当期待権とは、配当交付の基準日の翌日から配当金交付の効力が発生する日までの間の配当金を受け取ることができる権利のことです(評基通168(7))。決算日時点の株主に配当期待権があります。

*3 単に入金がされていない状態であり、未収配当金として相続財産となります。

給与所得等

被相続人の死亡日以後に支払われた給与所得等には、

ケース1:支給日を経過して支払われた(いわゆる給与の遅配)

ケース2:支給日どおりの支払(例えば、20日締め月末払いの支給条件で21日に死亡した場合)

の2つの場合があります。

所得税法上は給与所得の計上は支給日で判断するため、ケース1は死亡日時点で支給日が到来しているため被相続人の給与所得となり(準確定申告の対象)、源泉徴収された金額が支払われます。一方、ケース2は支給期が到来していないため被相続人の給与所得にはなりません。さらに源泉徴収されない金額が支払われます。つまり、ケース2は被相続人の所得税の対象とならず(準確定申告の対象外)、相続税が課税されるのみとなります(所基通9−17)。

相続税法上は上記のいずれのケースも未収入金として被相続人の相続財産となります。ただし、ケース1は源泉徴収後の金額、ケース2は源泉徴収されない金額が未収入金と、相続財産計上額が異なります。

 

相続財産となる未払い給与

*1 みなし相続財産の退職手当金等ではなく、本来の相続財産に該当し(相基通3-33)、分割対象となります。

<所得税基本通達36-9(1)(給与所得の収入金額の収入すべき時期)>
契約又は慣習その他株主総会の決議等により支給日が定められている給与等についてはその支給日、その日が定められていないものについてはその支給を受けた日。

<例示>

給与の帰属判定 例題

退職手当金

相続開始後に支払われた退職手当金等は、その支給金額が決まる時期によって課税上の取り扱いが違います。

退職手当金の課税関係

 

公的年金

被相続人が公的年金等の受給を受けていた場合には、亡くなった月分までの年金が支払われます。公的年金は偶数月の15日に前月と前々月の2ヶ月分を後払いする仕組みになっているため、未払いとなる年金が必ず発生します。被相続人に支払われるべき分で未払いとなっている年金を未支給年金といい、一定範囲の遺族からの請求に基づいて遺族に支給されます。

未支給年金となる月分の例示

公的年金と私的年金(企業年金、iDeCo、個人年金保険など)の未支給年金のどちらも、受け取った遺族の一時所得になります。これは、国民年金法等で、未支給年金の支給は相続とは別の立場から遺族に対して給付するものであると規定しているからです。ただし、私的年金から受け取った遺族一時金や遺族年金は相続財産となるので注意しましょう。☞ 年金を参照

なお、一時所得には50万円の特別控除があるため、その他の一時所得と合算して50万円を超えなければ所得税はかかりません。

未支給年金等の死亡後の入金項目

年金受給待機中の場合

被相続人が公的年金について繰り下げ受給(国民年金や厚生年金の受給開始時期を遅らせていた場合)を選択しまだ受給が始まっていない場合には、65歳から亡くなった月までのすべての期間が未支給年金となります。

 

入院給付金

被相続人が入院給付金等の給付金を受け取ることができる医療保険等に加入していて(保険料を被相続人が負担していた場合です)その給付金が被相続人の死亡後に支払われた場合です。相続税ではこの相続開始時に支払われていなかった入院給付金等は、受取人が誰であるかによって課税関係を判断します。また、生命保険金と違い、遺産分割対象となる場合があるので注意しましょう。

(1) 受取人が被相続人の場合

保険契約上、被相続人が受取人となっている契約の場合には、入院給付金に係る請求権(→本来であれば、被相続人が受け取るべきであった財産)を相続等によって承継したことになり未収入金として相続財産に含めます。本来の相続財産ですから生命保険金とちがって遺産分割協議の対象財産です。

(2) 受取人が配偶者等の場合

被保険者及び保険料負担者が被相続人であり、入院給付金の受取人が「配偶者、直系血族又は同一生計の親族」の場合は、非課税所得として所得税の課税関係も生じません。入院給付金のように身体の障害に起因して支払われる給付金については、所得税が非課税となっているからです。なお、受取人が配偶者、直系血族又は同一生計の親族以外の者である場合には、この非課税所得に該当しないため所得税が課税されます。

(3) 入院給付金と同じ取扱いをするもの

入院給付金と同じ扱いをするものに、診断給付金、手術給付金、通院給付金や先進医療給付金があります。給付金は、医療費の保障(→かかった費用の補填である)という意味合いがある点が生命保険金と性格が異なります。

入院給付金の課税関係

 

医療費の支払

医療費を支払った時期と支払者が誰かによって相続税と所得税の取り扱いが異なります。

相続開始前に被相続人が支払った医療費の医療費控除

まず、死亡した日までに被相続人が支払った医療費は、準確定申告の控除対象となります。なお、相続開始時に未払いとなっていた医療費は、被相続人の準確定申告での医療費控除ができません。(医療費控除ができる医療費は現実に支払ったものに限られるからです。)

相続開始後に遺族が支払った医療費の医療費控除

医療費控除は、自分または自分と同一生計親族の医療費を支払った場合に、その全額を支払った人の所得控除とすることができるため、被相続人と同一生計である相続人が被相続人の死亡した日以降に支払った医療費を、相続人の確定申告で医療費控除することができます。つまり、被相続人と同一生計の相続人ば、債務を承継して相続税を減らすことができると共に医療費控除を受けて所得税も減らすことができます。

被相続人と同一生計の相続人が被相続人よりも所得が多ければ、相続人の確定申告で被相続人の医療費を控除したほうが有利になります。

相続開始後に遺族が支払った医療費の債務控除

被相続人に支払能力がない場合には、医療費の立て替え払いは民法の扶養義務(民法887)の履行に該当することから、被相続人の医療費を立て替え払いしたという考え方は認められません(相続人に対する債務もないことになります)。このため、被相続人の準確定で控除はできません。実際に支払った者の確定申告で医療費控除します。

医療費の課税関係

 

賃貸収入

所得税法の取り扱い

所得税では、原則、支払日が定められている場合には、その支払日に未入金となっていても収益を計上します。また、毎年継続して前受収益や未収収益の経理をすることや小規模事業者の場合には現金主義(入金時に収益を計上する)も認められています。このように所得税では複数の所得計上の方法が認められているため、生前に被相続人が適用していた方法を確認する必要があります。

賃貸収入の課税関係:所得税法

ただし、事業の廃止、譲渡、死亡時等の場合には、現金主義を適用できないため、原則どおりの取扱いをする必要があります(所令196①)。

支払期日が到来している部分が相続財産

相続税では、支払条件が前払い又は後払いのどちらであっても、

  • 死亡した日において既に支払期日が到来しているにもかかわらず死亡した日においてまだ未収となっている賃貸収入

が未収金として相続財産になります(相続税法では発生主義を適用しません)。

反対に、

  • 支払期日が到来する前に受け取った賃貸収入

は、前受金又は預り金として債務控除の対象となります。なお、既経過分の賃貸収入の日割り計算は行いません。

<例示>

賃貸収入の帰属:所得税の視点

相続開始後の賃貸収入は法定相続分で分ける

賃貸収入は相続財産とは別個の財産

民法では、相続財産から生じる賃貸収入(法定果実)は相続財産と別個の財産として位置づけられています。このため、相続開始から遺産分割協議が成立するまでの間に生じた賃貸収入は、法定相続分に応じて確定的に各相続人に帰属することになります。(平17.9.8最判)。確定的に帰属するため、遺産分割協議で確定した実際の取得割合による影響は受けません。つまり、遺産分割協議が確定しても修正申告はできないということです。

賃貸収入の分割内容を遺産分割協議書に明記する

一方、相続の実務では、賃貸不動産を取得する相続人が相続開始以降の賃貸収入も合わせて取得するケースが一般的です。この取得は、本来、法定相続割合で各相続人に帰属しているものを特定の相続人に寄せることになり、相続人の間で贈与がおこなわれたことなります。

相続人間の贈与となることを回避するためには、賃料相当の金額を相続人間の代償財産として取り扱うことに相続人全員が合意し、次の事項を遺産分割協議書で明確にすることが必要です。

  • 共同相続人の全員が果実を遺産分割の対象含めることに合意していること
  • 分割までに生じた法定果実の分割内容を相続人間の代償金としていること
遺産分割が成立するまでの法定果実の帰属

*1 賃料相当の金額を相続人間の代償財産として取り扱うことに相続人全員が合意し、次の事項を遺産分割協議書で明確にすることが必要です。

  • 相続人全員が賃貸収入を遺産分割の対象含めることに合意していること
  • 分割までに生じた賃貸収入の分割内容を相続人間の代償金としていること

*2 なお、いったん法定相続分で賃貸収入を確定申告した後にその後に分割が確定した場合でも、分割の確定を理由とする所得税の更正の請求又は修正申告はできません。

遺産分割の遡及効果