相続税対策の3つの視点と対策の進め方
目次
相続税対策の3つの視点
相続には、①納税資金の対策、②節税対策、③遺産分割対策の3つ解決すべき課題があります。
納税資金対策
納税資金対策とは、相続税を支払う資金が用意できるように対策するです。相続税は、相続開始後10ヶ月以内に一括現金納付する必要があります。
- 相続財産に換金しやすいものがどのくらいあるか。
- 逆に、相続人側に、納税資金が用意できる資力があるか。
- 不動産等がある場合には換価分割できるだけの資金があることが望ましい。
<対策例>
生前の施策
- 生前贈与(非課税、控除、住宅資金・教育資金や子育て資金贈与の特例など)
- 遊休資産の売却
相続時の資金化の施策
- 生命保険
- 資産売却
節税対策
節税対策とは、相続税の額を軽減する対策です。一般的に、節税対策の観点からは、財産を現預金よりも賃貸アパート・マンションなど不動産のほうが評価額を低くできるため税負担が軽くなり好ましいとされますが、上記の納税資金準備とは逆の方向性となってしまいます。何事もバランスが大事ということです。
<対策例>
この課題に対する施策には、①相続財産の評価を下げることを目的とする、②相続財産そのものを減らすことを目的とする及び③控除額を増やすことを目的とするの、3つのタイプがあります。
相続財産の評価を下げる
- 小規模宅地など評価減の特例を適用
- 配偶者居住権
- 一軒家からマンション居住へ
- 資産の組み替え(金融資産→不動産)
相続財産を減らす
- 生前贈与(非課税、控除、住宅資金・教育資金や子育て資金贈与の特例など)
- 生命保険
- 仏具、お墓の購入
- 寄附
控除額を増やす
- 養子縁組
- 生命保険や死亡退職金の非課税枠
遺産分割対策
現実に相続が発生したときに争いなく遺産を分けることができるようにする準備しておく対策です。
生前のコミュニケーション
- 相続についての意見や希望などについて相互の理解を深める生前の話し合い
生前に渡してしまう
- 生前贈与
意思を明確にする
- 遺言書の作成
- 生命保険
死因贈与
相続対策の進め方
一般的な相続対策は、次の3ステップでおこないます。
現状把握(数値化して可視化する)
- 相続人の状況
- 相続人の数、年齢など
- 二次相続の推定相続人
- 相続財産の棚卸しと整理
- 土地、建物、預貯金、有価証券、生命保険、借入金など
- 相続税法上の相続財産生命保険金、死亡退職金、生前贈与など
- 相続財産の蓄積
- 将来の相続財産の推移を可視化
- 財産の分け方の意向
- 残された配偶者等の生活設計
相続税額を計算する
- 相続税額を算出
- 現状と数年後(相続財産の蓄積状況)
- 適用可能な特例の棚卸と整理
- 特例適用を受ける場合、受けない場合でいくら変わるか
- 二次相続(配偶者の相続を含めて試算し次の代への相続を含めて試算する)
問題点の整理(3つの観点から問題点を洗い出し整理する)
- 問題点の優先度
- 対策案の洗い出しと効果算出
相続開始後にできる対策
相続開始後でも、次の施策や特例を受けることで税負担を軽くすることができます。
相続人を増やす
- 直系尊属が相続人となる場合には、直系尊属が相続放棄をすると兄弟姉妹が法定相続人となる(兄弟姉妹の数が多いことが前提です)
評価を下げる
- 配偶者居住権を設定する
- 小規模宅地等の特例を受ける
- 配偶者の税額軽減を受ける
- 不整形地、接道義務、地積規模の大きな宅地など減価要因を反映した宅地評価をおこなう
- 遺産の分け方の工夫(分筆の仕方)
納税額を下げる
- 配偶者の税額軽減の特例
- 農地の納税猶予
- 未成年者、障害者には必ず財産を相続させる
相続対策は早めの着手がよい
相続対策は、次の3つの理由から早く着手したほうがよいといわれています。
*1 相続開始前3年以内の贈与であっても、受贈者が相続人の家族(配偶者や子)の場合には、それらの者は相続人ではないため、遺贈により財産を取得しなければ生前贈与加算の適用はありません。
とはいえ、早めにスタートした相続税対策が無駄になるリスクがあります。相続税法は、過度に税負担を軽くする節税方法を防止するための見直しが、毎年のようにおこなわれています。相続税の申告には、相続があった時の相続税法が適用されるため、施策を実行した時には認められた方法が、相続開始時には認められないということがあるのです。