遺言執行者の権限

遺言執行者の権限の明確化

改正前民法は、「相続人の代理人とみなす」という規定があるのみで、遺言者の意思と相続人の利益が対立する時に、遺言執行者は相続人と遺言者のどちらの立場で行動するのか明確になっていませんでした。

今回の改正で、遺言執行者は、相続人の代理人であるとの規定が改められ、遺言の内容を執行する立場にあることが明確化されました。

また、遺言執行者の復任権(遺言執行者が自らの責任でその任務を第三者に委任すること)が広く認められました。

民法改正 遺言執行者の権利義務

遺言執行者の選任

遺言執行者になれる者

遺言執行者は、自然人に限らず、法人でも良いことになっています。例えば、信託銀行を遺言執行者に指定することができます。

相続人も遺言執行者に指定することができます。ただし、相続人の廃除や認知など、他の相続人の利害と直接に衝突するために職務遂行の公平さが客観的に期待できない特段の事情のある場合を除きます。

遺言執行者の指定・選任

遺言による指定又は指定の委託

遺言者は、遺言で、遺言執行者を指定すること、又は、遺言執行者の選任を第三者に委託することができます。

遺言執行者に指定された者は、就任につき諾否の自由があります。

家庭裁判所による選任

遺言執行者がない場合には、利害関係人の請求により、家庭裁判所が遺言執行者を選任することができます。利害関係人とは、相続人、受遺者、それらの者の債権者などです。

相続人へ遺言内容を通知する義務

遺言執行者は、任務を開始した時は、遅滞なく、遺言の内容を相続人に対して通知する義務を負います。

遺言執行者の職務内容

遺言の内容を実現することが職務

遺言執行者は、遺言の内容を実現することを職務とし、①相続遺産の管理、②遺言の執行の妨害の排除、③その他の遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています。

遺言執行者は相続人の利益のために職務を遂行する者ではないため、相続人の利益に配慮しながら遺言を執行する必要はありません。

例えば、遺留分を侵害する内容の遺言がなされた場合など、遺言者の意思と相続人の利益とが対立する場合においても、遺言執行者はあくまでも遺言者の意思、つまり、遺言の内容を実現することが職務です。

また、相続人は、遺言の執行を妨げる行為をすることができません。

遺言執行者の行為の効果

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示して行った行為は、相続人に対して直接にその効力が生じます。

つまり、遺言執行者の行為の効果は、相続人に帰属します。

遺言執行者の復任権

遺言執行者の任務を専門家等の第三者に任せることができる

遺言執行者は、自己の責任で自らの代理人を選任し、その職務を行わせることができます。この権利を、復任権といいます。ただし、遺言者が遺言においてこれを認めない意思表示がある場合には、代理人に委任することはできません。

遺言執行者の権利義務:復任権

遺言において十分な経験と法律知識を有していない相続人等が遺言執行者として指定される場合が多く、遺言執行者の職務が広範囲に及ぶとか難しい法律問題が絡むような時には、適切に遺言を執行することが困難となることもあり得ることなどから、専門的な知識、能力がある第三者を復代理人として選任できるようにすることが適当と考えられたためです。

改正前は、代理人は本人との信頼関係に基づいて選任されるため自らその事務を処理すべきであるとの考えから、やむを得ない事由がなければ遺言執行者は第三者にその任務を行わせることができませんでした。

遺言執行の費用

遺言執行費用は債務控除の対象にならない

遺言の執行に関する費用(例えば、相続財産の管理に関する費用、遺言執行者への報酬など)は、相続財産の負担となります。

ただし、相続税においては、債務控除の対象となるのは、被相続人の債務で相続開始の際に現存するものに限定されているので、遺言執行費用は相続税の計算上、債務控除の対象とはなりません。

遺言執行者の権限の明確化

遺言執行者の権限の内容は、遺言の内容によって定まります。しかし、遺言の記載内容からでは、遺言者が遺言執行者にどこまでの権限を付与するつもりであったのか、その意思が明らかにならないことが多いことから、一般に多く用いられている遺贈及び遺産分割方法の指定があった場合について、遺言執行者の権限の内容を明確にしました。

遺贈とは、遺言によって他人に自己の財産を与えることであり、特定遺贈と包括遺贈があります。この他人には、相続人以外の第三者の場合もあれば、相続人であることもあります。財産が特定された相続人に対する遺贈は、遺贈ではなく、遺産分割方法の指定として取り扱います。

遺産分割方法の指定とは、個々の遺産について具体的な分け方を指定した遺言の場合です。この場合には、遺産は、相続人の共有とはならないため、遺産分割協議を経ないで相続人が取得することになります。

特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言の場合

特定財産承継遺言とは、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言のことです。この遺言は、遺産の分割方法を指定したものと取り扱います。ただし、遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がある場合には、遺贈として取り扱います。

遺産執行者の権利義務:特定財産承継遺言の場合

遺言執行者に単独登記できる権利が付与された

遺言で遺産分割方法の指定がある場合には、遺産を取得する相続人が単独で不動産登記などの手続きをおこなうことができます。

特定財産承継遺言の場合には、遺言執行者にも、不動産登記の手続きのような相続人が対抗要件を備えるために必要な行為を単独で権限が付与されます。

ただし、登記の移転を遺言執行者と相続人のいずれが行うべきかについては、改正民法においても明確になっていません。

預貯金の払い戻し等の権限が付与された

預貯金が特定財産承継遺言された場合には、遺言執行者に①払戻請求権及び②預貯金契約の解約の申し入れを行う権限が付与されました。

このため、遺言執行者から払い戻し請求等を受けた金融機関は、共同相続人の同意がないことを理由として拒否できないことが明確になりました。従来は、金融機関によって対応が異なっていました。

なお、預貯金以外の金融商品については、遺言執行者の権限について規定が設けられていないため、遺言内容から判断します。

遺贈の場合

受遺者は遺言執行者に対して遺贈の履行請求をする

遺贈の場合には、財産の引き渡しや名義の移転といった遺贈の履行をおこなう義務を負うのは相続人全員です。ただし、遺言執行者がいる場合には、この遺贈の履行は、遺言執行者だけができることになっています。

遺言執行者の権利義務:遺贈の場合

従来、遺言執行者がいる場合に、受遺者は遺言執行者と相続人のどちらに対して遺贈の履行請求をすればよいのか明確になっていませんでした。この規定が設けられたことにより、受遺者は、遺言執行者がある場合には遺言執行者と、執行者がいない場合には相続人を相手方として、遺贈の履行請求をすべきことが明確になりました。