生命保険金

目次
被相続人が保険料を負担した生命保険金はみなし相続財産
被相続人が死亡したことにより、相続人等が生命保険契約の保険金や生命共済契約の共済金を受け取ったときには、被相続人が負担した保険料に対応する部分の金額は、みなし相続財産として相続税が課税されます。
ただし、生命保険金は被相続人死亡後の家族の生活を守ることが主たる目的であることから、相続人が受け取った生命保険金等の合計額に対して「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。
すべての相続人が受け取った生命保険金の合計額が非課税限度額を超える場合には、その超える部分が相続税の課税対象となります。
生命保険契約に関する権利について>>詳しくはコチラ
課税要件
次の2つの要件を満たした生命保険金等が相続税の課税対象となります(相令1の2)。
- 被相続人の死亡を原因として支払われた生命保険金であること
- その生命保険金の保険料を被相続人が負担していたこと
例えば、死亡後に受け取った保険金であっても、被相続人の死亡時に高度障害等を理由として被相続人自身に支払われるべきであった保険金の場合には、相続税法上の死亡保険金に該当しません。この保険金は未収入金として相続財産になります(相基通3−7)。
この要件を満たす損害保険契約やJA等の共済契約による共済金も相続税では生命保険等に該当します。
傷害保険契約から支払われる保険金
自分を被保険者として傷害保険に加入した場合に事故等で亡くなった時には、遺族はこの傷害保険契約に基づいて死亡保険金を受け取ることになります。
この場合に受け取る保険金は生命保険契約に基づく死亡保険金と変わらない(損害賠償の性質を持つものではない)ため相続税の課税対象となります(相法3①一、相基通5−5)。
課税される生命保険金に含めるもの
生命保険金と一緒に支払われるものうち課税対象となる項目は次のとおりです(相基通3-8)。
課税関係
生命保険金の支払を、保険料の負担者から保険金受取人への財産の移転と考えます。このため、保険料の支払者、保険金の受取人が誰かによって課税される税金が異なります。一般的に契約者が保険料負担者と考えられますが、名目上の契約者ではなく保険料を実質的に負担していた者を契約者とみなして課税関係を判断します。この課税関係をまとめると、次の表のようになります。
【生命保険金の課税関係】
相続人又は相続放棄した者が受け取る場合
どちらも相続税の課税対象となりますが、非課税枠の適用は受取人が相続人の場合に限られています。
相続人以外の者が受け取る場合
相続人以外の者が生命保険金等を受け取った場合には、遺贈により相続財産を取得したことになり相続税の課税対象となります。
- 相続税額の2割加算対象となる
- 相続開始前3年以内の暦年贈与財産を受け取っていた場合には、相続税の課税財産に含める
契約者と受取人が同じ者の場合
保険金を一時金で受け取る場合には一時所得、年金として受け取る場合には雑所得になります。それぞれの課税所得の計算式は次のとおりです。
一時所得:課税対象額=(受取保険金−既払込保険料−50万円)×1/2
雑所得 :課税対象額=毎年の受取保険金−既払込保険料の一定額
一時所得の課税対象となる所得額は、受取保険料から払込保険料と50万円の特別控除を差し引いた金額の半分となるため、税負担率は最高でも約27.5%(=(所得税の最高税率45%+住民税10%)× 1/2)でになります。したがって、最高税率55%の相続税より税負担が軽くなります。
生命保険金の計上時期は、その支払いを受けるべき事実が生じた日(被保険者の死亡日)です(所基通36−13)。
契約者(保険料負担者)・被保険者・受取人がそれぞれ異なる場合
契約者(保険料負担者)・被保険者・受取人がそれぞれ異なる場合には、保険料はみなし贈与として贈与税の課税対象となり税負担が重くなります。税負担を軽くするために、保険料を贈与等することにより①又は④の組合せとする対策が考えられます。
非課税枠を超えた部分が課税対象
相続人が受け取る生命保険金等の合計額に対して「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額が設けられています。
- 非課税限度額を超える部分が相続税の課税対象となります(相法12①五)。
- 相続人以外の者が受け取った保険金には非課税の適用はありません(相基通12-8)
- この非課税枠を適用することで課税価格の合計額が基礎控除額以下になる場合には、相続税の申告は必要ありません。
<計算式>
非課税限度額
= 500万円 × 法定相続人の数*1
各人の非課税金額
= 非課税限度額 × その相続人が受け取った保険金額*2/すべての人が受け取った保険金額
課税される保険金額
= その相続人が受け取った保険金額 − 各人の非課税金額
*1 非課税限度額は相続人が保険を受け取っているかどうかにかかわらず法定相続人の数で計算します。例えば、法定相続人が配偶者、長男と次男の3人の場合で、そのうちのひとりが保険金を受け取っていた場合でも3人分の1,500万円が非課税限度額となります。
<例示>
評価方法
生命保険金の受け取り方には、一時金、分割、定期金(年金)などがあります。いずれの受け取り方でも非課税限度額の適用があります(相基通3−6)。
*1 一時金で支払いを受ける保険金を分割払いの方式で支払いを受ける場合を含みます。(相基通24-2)
*2 「定期金に関する権利」について>>詳しくはコチラ
年金の方式で保険金を受け取る場合は、受け取る年金の一部が「雑所得」として所得税の課税対象となります。
リビングニーズ特約(生前給付金)
医師から余命6ヶ月以内と診断された時などに死亡保険金の一部または全部を生前に受け取れる「リビングニーズ特約」がついている生命保険があります。リビングニーズ特約により生前に保険金を受け取る場合は、「身体の傷害に起因して支払われる」保険金に該当するものとして、その保険金は非課税所得になります。ただし、生前給付金を全額使い切らないうちに死亡した場合、残額は現金として相続税の課税対象となります。又、残額には生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数)の適用はありません。
*1 生前給付金は身体の傷害に起因して支払われる保険金に該当するため、所得税は非課税です(所法30①、所基通9-21)。
*2 生命保険金ではないので非課税枠の適用はありません。
非課税となる給付金には、入院給付金、手術給付金、通院給付金、先進医療給付金、ガン給付金、診断一時金、特定疾病保険金、リビングニーズ特約給付金などがあります。
相続における生命保険のメリット
生前に生命保険に入ることのメリットが5つあります。
(1) 納税資金対策となること
相続人が死亡保険金で相続税を支払えること。
保険会社に連絡すると、通常10日程度で現金が振り込まれます。
(2) 死亡保険金を確実に受取人に渡せること
死亡保険金は遺産分割協議の対象外なので、相続人の間で話し合うことなく受取人が保険金を受け取れるため、この人に残したいという思いを実現できます。
(3) 相続税を軽減できること
非課税枠を活用し、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人数)を相続税評価額から差し引けます。
(4) 銀行等の預貯金の凍結対策となること
被相続人の死亡後、被相続人の預貯金は凍結され、遺産分割協議が整うまで自由に引き出しできなくなります。生命保険金は相続人の遺産分割協議の対象とはならないので、受取人が単独で生命保険会社に保険金の支払いを請求できます。
(5) 遺留分減殺請求の代償交付金や代償分割時の代償金となること
相続人の間で単純に分割することが難しい自宅等の不動産や自社株式が相続財産に占める割合が高い場合の分割方法である代償分割を行う際の、代償金として保険金が使えます。また、遺留分減殺請求をされた場合の解決策として弁償金として保険金が使えます。→ 課税関係が一時所得となるような保険契約の加入が望ましい。
誰を保険金受取人にするか
子に非課税枠を適用する方が有利
被相続人が保険料を負担していた場合の生命保険金の受取人が、配偶者、子、相続人ではない孫の場合の税負担の影響は、次表のとおりです。
*1
相続人ではない孫に保険料相当額を贈与し、その孫自身が保険契約者、保険料負担者および保険金受取人となっている場合の死亡保険金は、一時所得として所得税が課せられます。相続税の非課税枠を使えませんが、相続税の対象となるよりも所得税(一時所得)の課税対象となったほうが、税負担が軽くなることがあります。
生命保険金を贈与する
贈与した現金を生命保険に変えることで無駄遣いをさせないために(自由に使える、生活習慣が変わって無駄遣いするなど)生命保険を活用した贈与という方法があります。
子や孫が贈与を受けた金銭をもとに、
契約者及び保険金受取人:その子や孫
被保険者:被相続人予定者
とした生命保険契約の保険料に充当した場合、上記表の④のケースに該当し、「受取保険金−払込保険料−50万円」の1/2が課税対象となります。一時所得の課税対象となる所得額は、受取保険料から払込保険料と50万円の特別控除を差し引いた金額の半分となるため、税負担率は最高でも約27.5%(=(所得税の最高税率45%+住民税10%)× 1/2)でになります。したがって、最高税率55%の相続税より税負担が軽くなります。